粉ミルク

「できるだけ母乳で育てたい」とは、どのお母さんも思います。でも、母乳ではどうしてもたりないときや、仕事などで子どもを預けるとき、粉ミルクはありがたい存在です。ミルクが母乳の良さを上回ることはありませんが、最近ではミルクの成分もどんどん母乳に近づいています。母乳はお母さんの特権ですが、ミルクでの授乳なら、お父さんも子育ての楽しみを分かち合えるでしょう。

ブランドや値段のちがい

現在も免疫強化物質や頭をよくするといわれる物質を配合するなど、各メーカーとも新成分で競い合っています。これだけ機能を言われると、選ぶのに迷うかもしれません。これらの成分は理論的にはいいし、これからも母乳に近づけていくのが正しい方向でしょう。しかし赤ちゃんの休もかなりうまく適応するようにできていますので、実際問題として、これらの成分が含まれていなかった昔の粉ミルクとあまり成長に差が出ません。ですから、どのメーカーのミルクを選んでもかまいません。

粉ミルクは、国や国連が母乳育児を推奨しているために、広告が禁止されています。また産科施設でのサンプルの無料配布は止めるようにと三十年前以上から国から通達が出ています。しかし、赤字で正規の栄養士を雇えない医療施設では、大手メーカーの社員(栄養士)が「調乳・栄養指導員」として派遣されています。基本的には母乳育児の良さを指導しているとのことですが、一部には自社の製品を宣伝し、サンプルや資料を渡したり、退院時の「おみやげ」にサンプルや小缶、お試し券などを入れることもあるようです。そうしないメーカーは、その分、製品の価格を引き下げていますから、価格の高いミルクがよいミルク、というわけではありません。「産院が使っていたから安心」という思いと、「ミルクの味が変わると、赤ちゃんが飲まなくなるのでは」 という心配とで、ブランドを変えにくいのがこの商品です。でも、もちろん途中で銘柄を変えてもかまいません。はじめは飲みがわるかったり、うんちの色や形が変わったりすることがありますが、数日でなじんでくるでしょう。便秘ぎみの赤ちゃんが、かえって治る場合もあります。

アレルギーが心配なときは

大人にも、牛乳を飲むとおなかがゴロゴロするという体質の人がいます。赤ちゃんが乳糖不耐症だったり、風邪などで下痢が続く場合には、医師の指導のもとで乳糖を含まないミルクを与えることもあります。アトピー性皮膚炎の場合は、原因がさまざまで、ミルクのためとはかぎりません。医師の診断をうけ、牛乳アレルギーがはっきりした場合は、大豆成分でできた粉ミルクを使うこともあります。大豆にもアレルギーがある場合は、たんばく質をアミノ酸まで分解した治療用の粉ミルクがありますが、苦みがあり価格も高くなります。母親が喘息や花粉症だったり、家族的にアレルギー体質がある赤ちゃんには、アレルギー成分を分解したペプチドミルクの方がミルクアレルギーを起こしにくいので、用いられることもありますが、実際に強いミルクアレルギーがある場合には危険です。これらの特殊なミルクは必ず、医師の診断・指導のもとで飲ませましょう。

●フォローアップミルク

フォローアップミルクは、9ヶ月以後の赤ちゃんが使用するミルクで、離乳食で不足しがちなタンパク質、カルシウム、鉄分が多めに含まれ、脂肪分がやや少なめになっているミルクです。安いからといって、9ヶ月以前の赤ちゃんには微量成分のバランスがちがうので、与えてはいけません。この年齢の赤ちゃんを調べると、鉄分不足による鉄欠乏性貧血が意外に多く、とくに母乳栄養の赤ちゃんの方がその傾向が強いのです。母乳の間は、お母さん自身が鉄分をしっかり摂るように心がけ、離乳食でも、有効な鉄分の多い赤身の肉、赤身の魚などを赤ちゃんに与えられればいいのですが、実際は、充分に食べてくれないことも多いのです。そのため、鉄分を充分含んだフォローアップミルクは栄養的な利点があります。牛乳は鉄分があまり多くなく、1歳前に与えると腸管からの出血を起こしたりします。与えるのは1歳過ぎにしましょう。

粉ミルクの今昔

日本ではじめて国産の粉ミルクが発売されたのは大正6年。和光堂の「キノミール」という商品でした。価格は450グラムの小缶が1円90銭。当時の米10キロとほぼ同じという、たいへん高価なものでした。また、使うときに穀粉を加えたり、月齢に応じて細かく濃度を調整しなければならず、医師の指導が必要とされていました。戦後のベビーブームで、粉ミルクは一挙に晋及しました。たくさんのメーカーがこぞって参入したため、昭和25年には粉ミルクの製造販売に厚生省の許認可が必要となりました。昭和27年には、成分表示基準が定められ、各種ビタミンを添加するなど、母乳の栄養に近づける努力がなされました。1960年 (昭和35年) 代になると、さらに成分を母乳に近づけるため、タンパク質を減らし、赤ちゃんの腎臓に負担をあたえるミネラル分の除去や、植物油の配合などが行われました。こうして1970年(昭和45年)代には、ほぼ母乳と同じ成分の製品ができあがり、粉ミルクだけで赤ちゃんを育てることができるようになりました。