早期教育

おじいちゃん、おばあちゃんとの同居が少なくなり、子育ての情報は友だちとのおしゃべりや育児雑誌から、というお母さんも多いことでしょう。育児雑誌には「音感は0歳から」「右脳の開発は1歳までが決め手」などと、早期教育をあおる広告があふれています。自分の子と比べて、友だちの赤ちゃんのほうが発達が早かったり、聞きわけがよかったりすると、このまま何もしないでいたら取りかえしがつかなくなると、新米のお母さんはあせってしまいがちです。そんな早期教育について考えてみたいと思います。

「人並み」のレベルは高くなって
いる?

今のお母さんはだいたい、1960年から70年代に生まれていることと思います。この年代、日本は高度成長期で、工業化がすすみ、早く、正確にものごとを処理する人間がたくさん求められていました。人よりも良い学校に入り、大きな会社に就職することが、お金に困らずに一生安定して幸せに暮らせることだと、多くの人が信じていた時代です。そんな価値観で育てられてきた私たちが、今母親として子育てをしています。二世代くらい前は、どこの家にも子どもがたくさんいて、お母さんは子どもたちがお腹をすかせないようにごはんを食べさせ、病気をさせずに大きくするだけで精一杯でした。それが今では、子どもを産む数も減り、経済的にも豊かになって、普通のサラリーマン家庭でも、子どもに質の高い教育をあたえることができるようになりました。どこの家庭もそうですから、人並みに育ってほしいと願う気持ちに、自分の子どもが人より遅れたらどうしようとあせりがでて、お母さんのプレッシャーが大きくなります。そんなところに、子どもが優秀に育つという早期教育をすすめられれば、心が採れうごくのはあたりまえです。

人気の語学、音感教育

「絶対音感は時期をのがしてしまうと一生身につきません。早期教育が大切です」 という話をよく聞きます。専門家の研究によると、音感は早ければ早いほど身につくというものではなく、3歳から6歳にかけてがその時期にあたるそうです。しかし、だからといって、何のための音感教育か、大事なことをわすれてはいませんか。絶対音感が必要とされるのは、音楽で身を立てるひとにぎりの人たちです。音楽で生きてゆくためには、才能はもちろん、学びつづける環境も必要です。人生の楽しみとしての音楽なら、何歳から始めても遅すぎるということはありません。「豊かな情操」ということもよく耳にしますが、これには絶対音感よりも、お母さんの子守歌やCDやラジオを通じてでも、毎日の暮らしの中に音楽を楽しむ環境があることの方が、よほど重要だと思います。

もうひとつ、英語をはじめとする外国語も幼児教育としては人気です。子どもは何のてらいもなく、耳から入ってきた言葉を口にするため、親が成果を感じやすいこともあります。しかし、言葉とは考えていることを相手に伝えるための道具です。考えがきちんと伝わることが大切なのであって、発音がネイティブスピーカー並みである必要はないのです。しっかり物事を考える、あるいは、相手に伝えたいことをきちんとまとめることの方が先で、それを伴わない早期の語学教育は本末転倒です。知育教育にも同じことがいえます。1歳で漢字が読めたり、2歳で計算ができると「すごい」と思いますが、20年後、30年後まで追跡調査をした結果はありません。こういうことは、その時点での親の優越感を満足させるだけで、その子の人生の中で幸せなことかどうかは、わかりません。玩具で子供と楽しみながら学ぶのが一番なのではないでしょうか。

学期教育の落とし穴

赤ちゃんが生まれると、どこで聞きつけたのか、音感や語学、知育といった早期教育のダイレクトメールや電話での勧誘が頻繁になります。早期教育についてのもう一つの問題は、どれもそれが「商品」の形で家庭に入ってくることです。それを忘れないで下さい。