赤ちゃんの名前 - やわらかな発想で個性的な名前を

名前には、自分や家族が使うだけでなく、その人とほかの人を区別し、社会生活でのコミュニケーションを保つという性格があります。感性豊かで個性があり、そして、愛情のこもった名前をつけることができたら、とてもすばらしいことではありませんか。かつては、赤ちゃんのおじいちゃんや恩師、会社の上司といった人に名づけ親になってもらうことが多かったものです。また、姓名判断や画数にこだわる人もいました。

しかし、核家族化がすすみ、家庭や個人の生活を大切にし、ゆとりのある生活を楽しむようになると、かつてのような名づけ方にとらわれず、親の愛情や願い、希望や将来へのメッセージなどを託した、個性的な名前が多くなりました。個性的な名前は、まわりから覚えられやすく、注目されやすいものです。さらに、音の響きがよくて、愛らしいニックネームで呼ばれることができたら、お子さんにとってどんなにか幸せでしょう。このように、さまざまな名づけ方がありますので、バランスのよい名前をつけたいものです。

イメージやフィーリングを大切に

最近の傾向として、イメージやフィーリングを大切にした名づけ方がふえています。たとえば、10月か11月に生まれた赤ちゃんなら、秋の澄みきった青い空をイメージして、男の子には「玲(りょう)」と名づけてはいかがでしょう。女の子でしたら「玲子(りょうこ・れいこ)」と名づけてみてはいかがでしょう。「玲」という字は、青く透き通って美しいさま、冴えて鮮やか、光り輝くさま、宝石がふれあって鳴る音、という意味があります。「りょう」という読みでは、これまで、男の子なら「良」「亮」「遼」、女の子なら「良子」「涼子」というような名前が多かったようです。

両親が海が好きで、もし女の子なら「める・メル・愛増」などと名づけてみたらいかがでしょう。「める」とは、もちろんフランス語の「mare」(海)からイメージした名前です。シャンソンに「ラ・メール」という曲がありますが、これは、岸辺に遊ぶ海鳥や波、空のうつろいを描いた、しっとりとした美しい曲です。ほんの一例をあげましたが、このように季節感からヒントを得たり、好きなイメージを取り込んでいけば、名づけ方も豊かになることでしょう。

親の願いを込めて

両親は、赤ちゃんが生まれる前から、新しい命がすくすくと健康に育ってほしいと願います。そして、ライフスタイルや生活の信条などから、優秀な子になってほしい、リーダーシップのとれる子や、スポーツのできる子になってほしいと願ったり、美しい心の持ち主になってほしい、芸術的十能を開花させてほしい、などとさまざまな願いを込めます。両親が音楽好きなら、「和音(かずね)」「美悠慈(みゆじ)」「百音(もね)」などとつけてみてはいかがでしょう。「百音」はまた、フランス印象派の画家、モネを連想させますし、美術方面で成功してほしいという、両親の願いの込もった好例と思います。賢い子に育ってほしいと願うなら、「賢」や「聡」という字を使うのが一般的ですが、「慧(けい)」という字を使ってみるのもよいものです。慧も「賢い」という意味をもら、「あきら・さとし・さと・さとる・え」などと、名づけのさいには読むことができます。男の子だったら「慧圭(けいじ)」、女の子だったら「慧夢(えむ)」というように、しゃれた名前になります。

木の葉がさやさやと快い風に吹かれながら、大きな木に育っていくさまをイメージし、女の子が美しく気高く育つように、「活楓(さやか)」と名づけることもできます。愛称も「サーヤ」と、さわやかでよい響きです。この5年間のデータをみると、男の赤ちゃんでは「拓哉」という名前が多くなっていますが、これはタレントの名前にあやかったのかもしれません。タレント名にあやかるのは、いつの時代でもおなじです。「拓」という字は切り拓く(ひら)、パイオニア、あるいは、大きい、広い、という意味をふくみ、「哉」という人名用漢字は、はじめ、はじめて、という意味をふくむとともに、才、材、という意味に通じています。つまり、他人にさきがけて未知の分野を開拓する才能のある人、ということになります。たとえタレント名にあやかっても、名前の漢字のもつ意味を理解できれば、おのずと両親の願いが込められるというものです。

漢字を自由に組み合わせる

最近は、漢字を自由に組み合わせて、個性的な名前をつけることが多くなっています。外国ふうの名前で、男の子なら「亜久里(あぐり)」「知亜里(ちあり)」「玲於奈(れおな)」、女の子なら「帆風(はんな)」「毯亜(まりあ)」「沙羅(さら)」など、ふだんあまり使われない漢字を使えば、新鮮な感じが伝わります。3月に生まれたので「ひなこ」とつける場合は、これまでは漢字で「雛子」とするのが一般的でしたが、当て字を使って、たとえば「陽南子」とすれば、明るくあたたかい陽光のような、芯の強い女の子のイメージとなり、両親の願いが、やがて大きくなっていくお子さんにも伝わるはずです。

名づけに使う漢字は、基本的にはどう読もうと自由なのですが、うっかりすると漢字の意味を取り違えて使ってしまうこともあります。「哀」「仲」「滅」などは、あまり使わないほうがよいでしょう。また、「信士」という熟語は仏教の戒名に使う言葉なので、名づけには向きません。このように、名前に使ってもよいとされる漢字にも、忌み言葉があるので気をつけます。したがって、当て字を使うのは自由ですが、いちど名前のイメージがうかんだら、かならず漢和辞典を引いて、意味を調べる必要があります。

音の響きや聞き取りやすさも考えて

名前は個性の表現だからといって、いくら独創的で個性的な名前であっても、それが耳に快く聞こえるかどうかも考えてみる必要があります。のちの項で述べますが、日本語はおもに母音と子音で構成されています。母音と子音には、やわらかい響きの音とかたい響きをもつ音があり、長音や拗音(よう)などの組み合わせでも響きは微妙に違ってきます。やわらかい響きの音や、かたい響きの音ばかりが続いたり、おなじ段の母音と子音が続くと聞き取りにくかったりします。また、拗音や促音(そく)がつづくのも音感的に考えものです。赤ちゃんはとくに音や言葉に敏感です。響きのよい音は、赤ちゃんの耳に快く聞こえます。強い音感をもつ音は、男の子だったら強さと勇気を呼び起こすでしょう。やわらかい音は、やさしさをはぐくむことでしょう名前は、母音や子音が少なくとも2つ3つ、多くてせいぜい6つか7つの組み合わせでできています。

漢字のもつ意味だけでなく、母音や子音をうまく組み合わせることもたいせつです。たとえば、栄一(えいいち)は「えいち」に、清夫(きよお)は「きょう」に聞き取られかねません。今日のように国際化社会がすすむと仕事や旅行で海外へ出る機会が多くなります。健一(けんいち)という名は、外国では「ケニチ」と発音されてしまいますので、もしかしたら、自分のことでないと思って聞き逃しかねない要素をもっています。N(ん)と母音の組み合わせも一考の余地があるかもしれません。音の響きのよさや聞き取りやすさは、赤ちゃんの耳に快いばかりか、他人の耳にも快く響いて、コミュニケーションをはかるうえでもスムーズにいくと思います。

読みやすさ・書きやすさを考えて

名づけに使う漢字の読み方は基本的に自由だと述べましたが、無理にこじつけた名前の読み方は、相手に迷惑をかけることになりますし、また、お子さんにとっても読み方をいちいち説明しなければならず、めんどうです。たとえば、長男なので「はじめ」と名づけたいとします。ふつうは「一」「肇」、あるいは「創」などの漢字を用いますが、工夫を凝らして「羽持馬」と名づけたとしたらどうでしょう。お子さんが大きくなったら「羽を持つ馬、ギリシャ神話のペガサスのことです」と説明できます。でも、お子さんが小さいころは、そのような説明ができず困ってしまうかもしれません。大人でも、「はもま」と呼んだりするかもしれないのです。名前がクイズのようで「はてな?」と思われてしまうのは、お子さんにとっても困りものです。 個性的な名前にするために当て字を使うのが昨今の流行とはいえ、すぐに読めないような感じを当てるのが、個性的な名づけ方だと勘違いする人も少なくないようです。ふだんあまり使わないような画数の多い漢字を使うのは、できるだけ避けたほうがよいでしょう。画数の多い文字は、毛筆では書きにくいですし、ワープロやパソコンで印刷すると文字がつぶれて読みにくいという場合も出てきます。

漢字にはまた、「亨」と「享」、「輝」と「畔」、「日工と「亘」など、偏(へん)や旁(つくり)が似ていたり、読み方は違うが字形が似ていたり、読み方はおなじで字形も似ているものなど、まぎらわしい漢字が数多くあります。まぎらわしい漢字を、相手にまちがって書かれたりすると、本人は不愉快になることもあります。名づけの漢字を決めたら、似た漢字は他にないか、あるいは実際に書いてみて書きやすい漢字なのかどうかも確認する必要があります。「空」を「あおし」もしくは「ふかし」と読ませたり、一般的な読み方からあまりにもかけ離れた読み方では、かえって奇をてらいすぎた感があり、しかも思いどおりに読んでもらえないことが多いでしょう。また、複数の読み方がある漢字を使うのは、できるだけ避けたほうがよいかもしれません。

覚えやすさ・ニックネームも考えて

名前は、個性を尊重するものであるとともに、社会的な存在としてコミュニケーションをはかるという目的があります。他人に覚えられやすい名前なのか、ニックネームで呼ばれるような、親しみやすい名前なのかどうかも考えてみます。 たとえば、「雅人(まさと)」は「マーくん」「マーちゃん」と愛称で呼ばれるはずですし、「賢人(けんと)」は「けんちゃん」、「一朗」は「イッくん」とニックネームで呼ばれるでしょう。「希望子(きみこ)」は、「きみちゃん」と呼びかけられるでしょう。名づけたあと、そうしたニックネームで呼んでみると、赤ちゃんの笑顔や泣き声がなんとなくひとりの人格をもって立ちあがってくるようで、愛情がいっそうわいてきます。両親が呼んでみて、愛情がわいてくるような、親しみのある響きの名前は、他人も覚えやすく、親しみをもって呼ばれますし、コミュニケーションもうまくはかれる要素をもっています。

見た目や名字とのバランスも考えて

名字とのバランスを考えないでなにげなくつけた名前が、ある意味をもつ言葉になるため、悪いニックネームをつけられて、いじめの対象になることもあります。「小田真理子」が「お黙り」、「尾久誠也」が「おお!臭いや」と言われたり、「剛人(たけと)」という名前が「強盗」、「智美」が「チビ」などと、べつな意味や呼び方をこじつけられて困っているお子さんがいたりします。名字と名前がぴったりはまりすぎるのも考えものです。いちど赤ちゃんの名前を名づけてみたなら、名字とのバランスを考えてみましょう。日本には、およそ10万の名字があり、とくに佐藤、鈴木、高橋、田中などは人数の多い名字です。このようなおなじ名字の人は、同姓同名の可能性も多く、名づけにはこの点でも工夫が必要です。長男だからといって「田中一夫」と名づけたら、それこそ個性のない名前になってしまいます。「田中」という名字が画数が少ないので、名前は「将則(まさのり)」とか、すこし画数の多い字を使うなど、いくつか考えてみます。あるいは、名字と名前に字形が似た漢字が並んでいないか、偏や労におなじものが並んでいないか、チェックしてみる必要があります。極端な例ですが、「有明朋明(ありあけともあき)」というような名前がたまにあったりします。また、3字姓に3字名というのも、くどさや重たい印象を与えることがあります。1字姓に1字の名前なども、つけていないということはありませんが、安定性に欠けることがあります。

ママの意見も素直に聞いて

ふつう、名前はお父さんがつけるものだと思われがちです。しかし、お母さんは、お子さんがおなかに宿ったとわかったときから、赤ちゃんとのたいせつな対話を続けているのです。「きょうはおなかの赤ちゃんに美しい音楽を聴かせたら、手足を元気に動かしてくれた」「きょうはすこし家事に精を出したので、おなかの赤ちゃんも疲れたみたい。ごめんね赤ちゃん」このように、おなかの赤ちゃんは、お母さんの慈(いつく)しみややさしさにはぐくまれ、すくすくと育っていくのです。そうした赤ちゃんとの対話のなかで、お母さんは「男の子だったらこんな名前、女の子だったらこんな名前」と考えているはずです。だから、お父さんは、お母さんの意見を聞いてあげましょう。両親のフィーリングにぴったりの名前かもしれません。お子さんが大きくなって、「だれがぼく(わたし)の名前をつけたの」、と尋ねる日がきっとあると思います。そのとき、「お父さんとお母さんが、ふたりで相談して決めたんだよ」、と答えてあげたときのお子さんの目の輝きようを想像してみましょう。

年長の人に名づけ親を頼むとき

私たちには代々、祖先の名前を1字とってつけるという慣習がありました。その家系の伝統、血筋の重要さなど、お子さんのおかれた状況を認識させるために、おじいちゃんや神主など、年長の人に名づけ親になってもらう例がかつては多かったものです。伝統や血筋の重要さなどといういかめしいものではなく、その子はまぎれもない私たち一族の者である、ということを示すために、とくに男の子にはその家に伝わるおなじ字を使って名づけることもあります。このように代々おなじ字を使って名づける字を「通字」といいます。代々、家業を受け継いでいく家庭では、おじいちゃんが名づけ親になることもあります。こうした通字の慣習は、お隣の韓国や中国にはなく、日本だけのものようです。祖先や目上の人の名前を子どもにつけるのは、かえって失礼にあたるという考えからで、それだけ儒教文化の影響が根強いということでしょう。自分の家主、おじいちゃんや目上の人に名づけ親になってもらう慣習があったとしたら、それだけ礼をつくしてお願いしなければなりませんが、ことさらに決まった手順があるというわけではありません。また、画数や姓名判断にこだわる目上の人もいますが、画数や姓名判断にこだわるようになったのは、明治時代後期から大正時代にはいってからで、かならずしもこだわる必要はありません。したがって、目上の人に名づけ親になってもらうときも、親の立場としては、こういう名前のほうが好ましいとか、希望をしっかりと言っておいたほうがよいでしょう。名前を選んでもらって、一部を受け入れ、一部を変えてもよいでしょう。あるいはその名前が気にいらなかったなら、はっきりと主張したほうがよいと思います。子どもの名前を決める権利は、子どもを育てる責任のある両親にあります。

参考書籍:[ふたりで名付ける赤ちゃんの名前]金園社
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