日本語の特性を考えた名づけを

私たちが使う日本語は、母音と子音の46音からできており、その組み合わせによって言葉が構成されています。母音とは、発音するときに舌や歯にかからない有声音のことで、子音とは、発音するときに舌や歯にかかって母音と結びつきながら発生される有声音のことです。日本語は、子音が母音と強く結びついて発音されるところに特徴があります。したがって、子音の響き、やわらかさ、語感は、母音に強く影響されます。

母音のもつ響きや特性

母音は、すべての音の基礎です。母音は、「ア、イ、ウ、エ、オ」の5音から成っていますが、これは基本的に世界中のあらゆる言語においても変わりはありません。日本語においては、子音が、ことに母音の響きに大きく左右されるため、呼び名の母音がその人のイメージをも左右するといえます。たとえば、「勝海舟」という名前は、
「KA TU KA I SYU」というふうに発音できます。この名前は、名字と名前のはじめを「K」という子音で発音しますが、日本語では、「カ」行はかたい響きをもち、意志の強さやきっぱりとした感じを訴えます。この「カ」行の音が名字と名前に2回続き、しかも子音のあとの「A、U、A、I、U」という語感がおおらかさと意志の強さをアピールしています。では、母音の示す語感を考えてみましょう。

「ア」

おなかの空気を思いっきり出すように、口を大きく開いて発音する。おおらかさ、力強さ、明るさ、伸びやかさ、積極性、行動力が伝わる。

「イ」

唇をすこし開いて発音する。突き進んでいくような集中力と、鋭さ、そして、繊細で意志が強い印象を与える。また、こつこつと努力する、芯の強さをアピールする語感がある。

「ウ」

歯を上下にすこし開いて、喉をすこしつめながら発音する。「ウーッ」「ウーン」などと、耐えたり、考えがつまったりするときに、この「ウ」という声が自然と出る。そして、粘り強く、内的な力強さが伝わる。50音の「ウ」の段には、柔軟性やスタミナカ、芯の強さ、ものをじっくりと考える、といった語感をもつ音が多い。

「エ」

唇を横に開いて発音する。やわらかさ、やさしさ、おおらかさが伝わる。この母音は強く発音すると、鋭い語調に変わる。したがって、50音の「エ」の段は分析的な響きを伝える音が多く、理知的、判断力のよさ、切り替えの早さ、といったイメージを伝える。

「オ」

唇をすぼめ、おなかの筋肉をやや緊張させて発音する。落ち着き、擁護力、指導性、おおらかさが伝わる。50音の「オ」の段は、包 容力や人情味を感じさせる響きももっている。

子音のもつ響きや力

50音の「カ」行から「ワ」行までが日本語での子音です。これに「ん」や濁音、半濁音、拗音、促音が加わります。子音は、母音の語感に強く影響されながら、発音の違いによって語感に微妙な違いや味わいが出ます。基本的に濁音や半濁音は、もとの音の語感を強くします。また、おなじ音がくり返されても、その音のもとの語感を強くします。それぞれの子音には、発音によってかたい語感を伝えるものと、やわらかい語感を伝えるものがあります。かたい語感を伝えるものは「カ、サ、タ、ハ」の各行ですが、総じてシャープでいさぎよい響きがします。いっぽう、やわらかい語感を伝えるものは、「ナ、マ、ヤ、ラ」の各行と母音の「ア」で、発音しやすく、しかもやさしい響きが伝わります。 次に、各行の伝える語感を考えてみます。

「カ」行

カ・・・・明快で鋭敏、しかも冷静な響きがあり、積極性も伝わる。
キ・・・・伸びやかさ、集中力、完遂力が伝わり、やさしさも合わせもつ。
ク・・・・じっくりと物事を成しとける、粘り強さが伝わる。
ケ・・・・自己主張にたけ、分析力や理論に強い感じが伝わる。
コ・・・・落ち着きや芯の強さが伝わる。

「サ」行

サ・・・・さわやかさ、華やかさ、繊細なフィーリングが伝わる。一途な語感も合わせもつ。
シ・・・・感性の豊かさと落ち着いた印象、静かなたたずまいが伝わる。
ス・・・・粘り強さや落ち着き、また、静かな語感が伝わる。
セ・・・・自己主張の強さと同時に、面倒見のよい感じが伝わる。
ソ・・・・温厚さ、おおらかさ、聡明さが伝わる。また、清楚さも感じさせる。

「タ」行

タ・・・・行動力があり、高潔さが伝わる。多方面の才能に秀でている面も感じさせる。
チ・・・・堅実で沈着冷静、知性的な響きがある。同時に気の強さを感じさせる。
ツ・・・・ひかえめだが、強い意志と行動力を感じさせ、明るさをも合わせもつ。
テ・・・・論理的な思索の深さ、分析力と批評眼の正確さを感じさせる。
ト・・・・おおらかな感じを受け、物事を完遂させようとする意志の強さを感じさせる。

「ナ」行

ナ・・・・柔軟性に富み、おうような感じが伝わる。
ニ・・・・やさしさと、繊細な感受性が伝わる。
ヌ・・・・一途さ、ひたむきさを感じさせる。
ネ・・・・目的を達成しようとする意志の強さが伝わるが、自己中心的な語感も合わせもつ。
ノ・・・・しっとりとした情感がただよい、おおらかな印象の響きをもつ。

「ハ」行

ハ・・・・行動力があり、明るくおおらかで伸びやかな印象が伝わる。軽快さ、なごやかさを合わせもつが、自分なりの価値基準と生活を守ろうとする一面もある。
ヒ・・・・明噺な頭脳と俊敏さ、物事に真剣に取り組む姿勢を感じさせる。
フ・・・・柔軟な感性、センスのよさ、きちんとした行動力を感じさせる。
ヘ・・・・明るさと軽快さ、知性を合わせもつような響きがある。
ホ・・・・やさしさと親しさ、包容力とともに機転の早さ、行動範囲の広さも感じさせる。

「マ」行

マ・・・・やさしさと思いやり、明るくほがらかな雰囲気をもっている。
ミ・・・・美しい響きをもち、頭のよさや感受性の強さも感じさせる。
ム・・・・内向的な響きをもつが、おだやかで粘り強く、仲間や家族をたいせつにするような語感がある。
メ・・・・おおらかさ、明るさ、ほがらかな語感がある。
モ・・・・いさぎよさ、感性の豊かさを感じさせる。また、忠実で堅実な印象も合わせもつ。

「ヤ」行

ヤ・・・・美しい響きがあり、感性がやわらかく、おおらかな印象を与える。芯の強い感じも伝わる。
ユ・・・・やはり美しい響きがあり、落ち着き、優雅さ、感性の豊かさも合わせもつ。
ヨ・・・・やわらかな感性と同時に、意志の強さも感じさせる。人の心に訴えるような響きがある。

「ラ」行

ラ・・・・楽天的でしかも意志が強く、何事にも挑戦的な印象を受ける。
リ・・・・健康的で積極的な語感があり、理知的で叙情的な響きも合わせもつ。
ル・・・・おとなしく、ひかえめな印象を与えるが、反面、能動的で多弁な感じを合わせもつ。
レ・・・・男性なら理知的、女性なら優雅な響き。
ロ・・・・名前の初めにくることはあまりないが、その場合、エキゾチックな印象を与える。名前の中では、「イチロー」などと安定感がある。

「ワ」行

ワ・・・・やさしさ、心の広さ、おおらかさ、行動力、未知へ旅立つ力強さなどが伝わる。

苗字との響きのバランス

いちど名前を考えたら、男の子だったら音の響きやいさぎよさ、力強さを、女の子だったらやさしく美しいフィーリングであるかどうかを、そして、名字とうまく調和しているかどうか、何度か発声してみます。たとえば、名字が「高橋」でかたい響きがしているのに、名前も「崇親(たかちか)」などとかたい音が重なると、呼びにくく、聞きにくくなります。また、名字の終わりの音と名前のはじめの音が重なるのも、「遠藤詩江(えんどううたえ)」のように、呼びにくく、聞きにくいものです。かといって、「愛美」「清夫」というふうに、やわらかい響きを強調しようとすると、いたずらにやわらかい音を重ねてしまったり、おなじ段の子音を重ねてしまったりして、かえって響きのバランスを欠くことになります。

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